金色の巻き毛に大きな瞳、頬に散ったそばかす。
写真を見ただけで、懐かしい主題歌まで思い出す方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回の買取品は、昭和を代表する少女アニメ『キャンディ・キャンディ』のセル画2枚です。
1枚目には、赤いリボンをつけた主人公キャンディのアップ。
2枚目には、眼鏡をかけたパトリシア(パティ)、中央のキャンディ、アニーと思われる3人が描かれています。
『キャンディ・キャンディ』はどんなアニメ?
テレビアニメ『キャンディ・キャンディ』は、少女漫画を原作として東映動画(現在の東映アニメーション)が制作した作品です。
1976年10月1日から1979年2月2日までテレビ朝日系で放送され、全115話にわたって主人公キャンディの成長が描かれました。
物語の舞台は、20世紀初頭のアメリカとイギリス。
孤児院「ポニーの家」で育ったキャンディは、富豪の家でのつらい経験や、愛する人との出会いと別れ、学園生活などを経て、やがて看護師への道を歩みます。
キャンディは、どのような状況でも持ち前の明るさを失いません。
ただ、物語は明るい成功談だけではなく、アンソニーとの突然の別れやテリィとの恋、親友アニーとのすれ違い、第一次世界大戦下での看護など、少女漫画としては重い出来事も扱っています。
悲しみがなかったことになるのではなく、それを抱えながら前へ進んでいく。
そんなキャンディの姿に励まされた方も多かったのでしょう。
原作は水木杏子、作画はいがらしゆみこ
漫画『キャンディ・キャンディ』は、水木杏子氏が原作を、いがらしゆみこ氏が作画を担当した作品です。
水木杏子は、児童文学作家・名木田恵子氏が当時使用していたペンネームです。
水木氏が各回の物語を小説形式の原稿にまとめ、いがらし氏が漫画として構成し、人物や場面を絵にしました。
物語を作った人と、漫画の絵を描いた人が異なる分業作品です。
講談社の『なかよし』で1975年4月号から1979年3月号まで連載され、単行本は全9巻。
累計発行部数は1200万部に達したと報じられています。
1977年度には、第1回講談社漫画賞の少女部門を『はいからさんが通る』とともに受賞しました。
1978年の全国学校読書調査「人気漫画」では、少年漫画を含めた中で小学生1位、中学生2位、高校生5位に入っています。
当時の少女だけでなく、幅広い年代に読まれた大ヒット作だったことが分かります。
アニメ版も放送開始後に人気を伸ばしました。東映の社史資料では、2クール目から少女たちの間で圧倒的な人気を得て、関連玩具も大きく売れたと紹介されています。
日本だけでなく、フランスやイタリアなど海外でも人気の出た作品です。
セル画とは、アニメに使われた「一瞬の絵」
セル画とは、透明なシートにキャラクターや動く物を描き、専用の絵の具で彩色したものです。
動かない背景は紙やボードに描き、その上へ人物を描いた透明なセルを重ねます。
動きに合わせて少しずつ異なるセルへ差し替え、1コマずつ撮影することで、画面の中の人物が動いて見える仕組みです。
「セル」という名前は、初期に透明シートの素材としてセルロイドが使われたことに由来します。
その後は燃えにくいセルロースアセテートなどが用いられました。デジタル彩色が普及するまで、セル画はアニメ制作に欠かせない素材でした。
一般的な制作では、原画で動きの要点を決め、その間をつなぐ動画を描きます。
その線をセルへ転写し、裏側から色を塗り、背景と重ねて撮影します。
そのためセル画は、漫画家が一人で描く色紙やイラストとは性質が異なり、作画監督、原画、動画、トレス、彩色、撮影など、多くの人の仕事がつながって完成する制作物です。
今回の2枚に感じる魅力
1枚目は、キャンディの顔が画面いっぱいに収まった一枚です。
大きな瞳、そばかす、豊かな巻き毛、赤いリボンなど、キャンディらしさがよく表れています。
表情も穏やかで、作品をひと目で思い出せる見栄えのよい構図です。
2枚目は一人のアップではありませんが、パティ、キャンディ、アニーと思われる3人がそろっています。
複数の登場人物が同じ一枚に描かれたセルには、一人だけの肖像とは異なり、物語の一場面を感じさせる楽しさがあります。
ただし、写真だけでテレビ本編の撮影に使われたセルと断定することはできません。
制作会社からの入手経路、セル番号、対応する動画や背景などを確認し、総合的に見る必要があります。
古いセル画には、放送用に使われたもののほか、販売用や複製用など別の目的で作られたものもあります。
「昔のアニメの絵だから、すべて本編使用品」とは限らない点には注意が必要です。
セル画の価値はどこで決まるのか
セル画の価値は、作品名だけで決まるものではありません。査定では、主に次の点を確認します。
- 作品やキャラクターの人気
- 主人公や人気人物が描かれているか
- 顔や表情がよく見える構図か
- 名場面や物語上重要なカットか
- 放送画面と一致する背景が付いているか
- 原画、動画、レイアウト、タイムシート、制作袋が残っているか
- セル番号やカット番号を確認できるか
- 入手経路や過去の購入記録が分かるか
- 退色、絵の具の剥がれ、波打ち、貼り付きなどがないか
同じ作品、同じキャラクターでも、顔が小さく一部しか写っていないものと、主人公の表情が大きく描かれたものでは見方が変わります。
また、背景や動画などが一緒に残っていれば、制作工程を伝える資料としての価値も加わります。
一方で、黄ばみや波打ちがあるからといって、すぐに価値がなくなるわけではありません。
長い年月を経た素材ですので、年代に応じた変化も含めて状態を確認します。
セル画を見つけたときに、してほしくないこと
ご自宅の整理でセル画を見つけても、きれいにしようとして絵の具の面を拭いたり、貼り付いた紙やセルを無理に剥がしたりしないでください。
絵の具が割れたり、線や色が一緒に剥がれたりするおそれがあります。
古い袋、動画、背景、番号の書かれた紙なども、処分せずそのまま残しておくのがおすすめです。
一見すると不要に見える紙が、作品名や話数、場面を特定する手がかりになることがあります。
保管するときは直射日光と高温多湿を避け、セルに強い圧力をかけないことも大切です。
酸っぱいような臭い、強い波打ち、べたつきがある場合は素材の劣化が考えられますので、密閉したり無理に額から外したりせず、現状のままご相談ください。
なぜ『キャンディ・キャンディ』は再放送されないの?
大変人気があった作品なのに、近年はテレビの再放送や国内の公式配信で目にする機会がほとんどありません。
その大きな背景に、原作者と作画者の間で起きた著作権をめぐる裁判があります。
2001年10月25日の最高裁判決は、水木氏の原稿を「原著作物」、それに基づく連載漫画を「二次的著作物」と認めました。
そのうえで、漫画を利用する際には原作者と作画者の権利が併存し、作画者側だけで権利を行使することはできないと判断しています。
いがらし氏の絵による漫画を基にしたアニメを新たに放送・配信・商品化するには、複数の関係者による許諾と権利の整理が必要です。
その調整が整わない状態が長く続いているため、日本での公式DVD化や継続的な再放送、主要な動画配信サービスでの配信が実現していません。
古いアニメのセル画も、そのままの状態でご相談ください
セル画は、もともと完成した映像を作る途中で使われた素材です。
しかし、デジタル制作が中心となった現在では、当時のアニメづくりを伝える貴重な資料になりました。
今回の2枚にも、笑みを浮かべるキャンディと、何かを見つめる3人の少女が残されています。
現在では作品を正規に見る機会が限られているからこそ、この透明な一枚が持つ懐かしさや存在感は、より大きく感じられます。
ご自宅やご実家から古いセル画、動画、台本、ポスター、昭和のおもちゃなどが出てきたときは、「古いから」「状態がよくないから」とすぐに処分せず、一度お見せください。
作品名や作者が分からないもの、紙と貼り付いているもの、付属品が混ざっているものも、できるだけ手を加えず、そのままの状態で構いません。
今回、昭和の少女漫画・少女アニメ史に名を残した名作を後につたえるためのお手伝いをさせていただきました。
ありがとうございました。