今回の買取品は、日本を代表するガラス工芸家・藤田喬平による「手吹 ヴェニス 鉢」5客です。
黄色、桃色、紫色、水色、黄緑色の5色がそろった、明るく華やかな作品です。
乳白色のガラスに色の帯が伸び、器の中心から口縁へ向かって模様が広がっています。ふわりと開いた姿は夏の朝に咲く朝顔のよう。日が高くなるとしぼんでしまう花のような、はかなげな様子が大変美しいガラス器です。
日本を代表するガラス工芸家藤田喬平
藤田喬平は、1921年に東京で生まれたガラス工芸家です。
東京美術学校、現在の東京藝術大学で彫金を学んだのち、ガラス工芸へ転向しました。
色ガラスと金箔を使った「飾筥(かざりばこ)」で独自の表現を確立し、日本のガラス工芸を代表する作家として知られています。2002年には、ガラス工芸家として初めて文化勲章を受章しました。
藤田は、完成した作風にとどまらず、新しい表現を求め続けた作家でもあります。
1977年からは、イタリア・ヴェネツィアのムラーノ島で制作を始め、その後も現地で作品を作り続けました。
ガラス工芸家の憧れの地、ヴェネツィアのムラーノ島
ヴェネツィアのムラーノ島は、世界的に知られるガラス工芸の中心地です。
長い歴史の中で培われた吹きガラスやレースガラスなどの技法が受け継がれており、ガラス工芸を志す人にとっては、熟練職人の技に触れながら表現を深められる憧れの地といえます。
ヴェネツィアで広がったガラス表現
藤田はムラーノ島で制作するなかで、色ガラスを組み合わせる表現や、細い線が網目のように重なるレースガラスなど、現地に伝わる技法に触れました。
1978年には、ムラーノ島で制作した「カンナ文様ガラス器」を発表しています。日本的な色彩感覚とヴェネツィアンガラスの技法が結びついた作品群は、藤田喬平を語るうえで欠かせない仕事のひとつです。
ムラーノ島の伝統技法が生かされている
今回お買取りした鉢には、色の帯に沿って細かな線や斜めの文様が施されています。
単純な縞模様ではなく、線の太さや重なり方に変化があり、眺める角度や光の入り方によって異なる表情を楽しめます。
これはムラーノの伝統技法、カンナ棒を組み合わせて模様を作る技法や、レースガラスに通じる表現です。
今回お買取りした「手吹 ヴェニス 鉢」―花びらのように開く軽やかな形
今回のお品は、底から口縁へ向かって大きく開いた浅い鉢です。
少し波打つような口縁には、花びらが風に揺れるような動きがあります。
器として使うだけでなく、棚や飾り台へ並べても見映えのする造形です。5客を並べると、それぞれの色が響き合い、作品全体の華やかさがさらに伝わります。
乳白色のガラスを彩る5色
黄色、桃色、紫色、水色、黄緑色と、1客ごとに異なる色が使われています。
鮮やかな色を乳白色のガラスがやわらげているため、5客をまとめて置いても派手になりすぎません。
中心から外側へ伸びる模様は、草花の葉や光の筋、水の流れなど、見る人によってさまざまな景色を思わせます。
淡い色を出す難しさ
色ガラスは、着色成分の配合がわずかに変わるだけでも、狙った色より濃くなったり、くすんだりします。
特に淡い色は誤差が目立ちやすく、ガラスに含まれる微量な不純物の色も影響します。
また、同じ色ガラスでも、厚い部分は濃く、薄い部分は淡く見えるため、手吹きで器の厚みを整えながら均一な発色を保つことも簡単ではありません。
さらに、複数の色を組み合わせる作品では、隣り合う色が混ざりすぎると透明感が失われます。
淡さを残しながら、色の輪郭や細かな模様を見せるには、加熱する温度や時間、吹いて広げる速度を的確に調整しなければなりません。
今回の買取品は、乳白色のガラスに黄色や桃色、水色などが柔らかく溶け込みながら、それぞれの色が濁らずに表れています。
鮮やかさだけに頼らず、光を通したときの繊細な色合いまで計算された点に、藤田喬平の高度な技術と色彩感覚が感じられます。
手吹きならではの一客ごとの違い
「手吹」とは、溶けたガラスを吹き竿に巻き取り、息を吹き込みながら形を整える技法です。
同じ意匠の器であっても、口縁の開き方、模様の流れ、色の重なり方にはわずかな違いが生まれます。
今回の5客にも、それぞれ異なる揺らぎがあり、手仕事ならではの個性を感じられます。
今回の鉢は口径約10cm前後、高さ約4〜5cmほどの小ぶりなサイズです。手に取りやすく、食卓や飾り棚など身近な場所で藤田喬平のガラス表現を楽しめる点も、この作品の魅力といえます。
藤田喬平のガラス器が評価される理由
藤田喬平の作品が中古市場でも評価される背景には、作家としての確かな実績と、ひと目で個性が伝わる独自の作風があります。
藤田は2004年に亡くなっているため、本人による新たな作品は今後制作されません。代表的な意匠や大型作品、保存状態のよい作品、展覧会への出品歴を持つ作品などは、希少性の面から注目されることがあります。
同じ色展開のアイスカップとゴブレットも買い取らせていただきました。ありがとうございました。